文章置き

written by古川優菜twitter:)http://twitter.com/fullkota思いついたときに思いついたことをつらつら書くので更新は不定期。
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思いついたときに思いついたことをつらつら書くので更新は不定期。

白狐

またおじいちゃんがどこかに消えた。いつものことなのに烏天狗は過保護に騒ぎ立てている。せっかく宿題していたのに「ぼんやりしてないで若も総大将を探すのを手伝ってください!」と言われたので僕は仕方なく屋敷をうろうろとして探し始めた。ある部屋では毛倡妓と首無しがお酒を飲んでいて、ある部屋では鴆君が何かの本を読んでいて、ある部屋では雪女とお母さんが雑談をしている。一通り歩いてみたが見つからない。行き止まりにまできてしまった。もしかして、っていうかもしかしなくても家にいないんじゃないのかな。はあ、とため息をついて自分の部屋に戻ろうかと踵を返そうとした時、ふと視界に入ったのは他の部屋とは違う、襖ではなく障子の無い木製の戸。こんな戸はあっただろうか、今まで見たことが無い。そう思うと好奇心がわいてくるもので、すっ、とその戸をあけた。

戸をあけた先はまるで異世界のようだった、
というわけでもなくて。だけど、戸を開けると何かの部屋だと思っていたのに永遠と今までと同じような廊下が続いていて拍子抜けをした。うちの屋敷ってこんなに広かったんだっけ…?
「ん?客人か」
「あ、えっと・・・」
急に近くの襖が開けられて、声を掛けられて僕は思わず肩をびくっと震わせた。襖から半身出ているその姿は長身で白髪(はくはつ)が印象的な人物だった。
「あれ、お前ぬらりひょんのとこの若頭じゃねえの?でっかくなったなあ」
「え、僕を知ってるの?」
「おう。あんまり"そっち"に出向くことは少ねえんだがな。これでも奴良組の一員よ!」
「そうなんだ。知らなかったや。あっ、名前聞いても良いかな」
「あー俺は元親だ。・・・おっとこんなとこで話してる場合じゃなかった。せっかく来てくれた若には悪いが今ちょっととりこんでてな」
表情が豊かな元親さんは申し訳なさそうにしていて、本当に何か事情があるようだ。どうかしたの、と聞くと苦笑いして「ちょっとな、」としか答えない。お節介なのかもしれないけどやっぱり気になるし、さっき初めて会ったばかりだけどそうやってはぐらかされるのはちょっとさみしい。
「僕が協力できることならなんでもするよ。本当にどうしたの?」
「・・・はあ。うちの長が体調崩してしまってな」
「えっ!大丈夫なの?」
「ああ。ただの風邪なんだがこじらせてしまってなあ・・・。」
「ちょっと待ってて!今から鴆君呼んでくる!薬師だからきっとなんとかしてくれるはず!」
「おい、ちょっと若!」

待ってて、すぐ鴆君を呼んでくるからね!元親の叫んだ声を無視して僕は先ほど鴆君がいた部屋に向かって走り出した。

***

体調が悪そうな鴆君には悪いけど、どたばたと騒がしく音を立ててさっきの元親さんがいたところへ向かう。木製の戸を見て鴆君も不思議そうに「こんな戸はあったか?」と呟いている。その戸を思いきり、ばん、と開けて叫んだ。
「元親さん、連れてきたよ!」
「ああ悪いな。こっちだ。」
やはりばたばたとうるさくさせたからか、それとも鴆君の顔色の悪さから本当に治療できるのかと思っているのか訝しげな表情をしている。その表情もくるりと方向転換したことで見えなくなり、大きな背中が小さくなっていく。慌てて僕たちは元親さんを追いかけた。

「長、入るぞ」
す、と襖をあけた先には布団の上に丸まっている白い狐がいた。側には無表情に見えるが微かに心配そうな表情をしている赤髪の人がひかえ、奥の方でこちらの様子を怪訝そうにうかがっている人もいた。
「本家の若が薬師を連れてきたぜ」
「…本当に看れるんだろうな、貴様の方が病人面してるぜ」
「ああん?なんだとこら!」
「ああもう挑発に乗らないで鴆君!」
「・・・ちっ」
「おい、仁。」
「・・・ちっ」
僕と元親さんがなだめる声を出したのはほぼ同時だった。やっぱり半ば無理矢理に連れてきたからか鴆君は不機嫌で、奥の人もイライラしているようだった。その2人をなんとか治め、鴆君に臥せている狐を診させた。

「・・・確かに風邪だな。ちぃっとこじらせてるようだが。」
こんなもん薬飲んで寝てたら直に治らァ。そう言って鴆君は側に置いた薬箱から薬を取りだした。軽く折り目がつけられた懐紙にさらさらと白い粉を落としていく。その薬を片手に、逆のそれで白い狐を労わりながらそっと起こさせ薬を口に運び、猪口に入れた水も狐の口に含ませた。こくこく、と小さな喉が揺れる。薬と水を飲みきった狐はさっきと変わらないはずなのにどこか穏やかそうに見えた。
「念のために余分に薬置いとくぜ」
「ああ、助かった。」
「まあこれが俺の仕事だからな。」
けほけほ、と咽た咳が一通り治まったころには真剣な表情をしていた鴆君もふ、と気をゆるませた。す、と薬箱を持って立ち上がり「それじゃあ俺はお先に失礼します」と出ていくので僕も元親さんもお礼を言った。そこでやっと赤髪の人も、奥にいた人もどことなく切り詰めていた空気を緩ませたので僕もほっと息を吐いた。

***

「そういや若はなんでこんなところに来たんだ?」
「あ!!僕おじいちゃん探してて、」
「総大将か?あの人ならうちの狐遣って外に出たぞ」
「えーっ!ていうか、狐を遣って…?」
「ああ、俺も今は人の姿になってるけど元は長みてぇな白狐だ。俺らでかくなれるからよ、移動手段にちょくちょく遣われてんだ。」
「そうなんだ。」
「おうよ!長は総大将専属の付き狐だぜ?」
「え、えーーー!?」

思わず叫んでしまうと奥にいた人(狐?)に「うっせえ長が起きるだろうが!」って怒鳴られて思わずびくりと肩を震わせた。思わず視線をそちらへ向けると臥せている長の狐を優しいけどちょっと心配げな目つきで見ていた。赤髪の人も表情はわかりづらいけどやさしい手つきで白い狐を撫ぜている。がたがた、と鴆君が去って行った襖から音がしてふとそちらへ目をやるとたくさんの狐たちがこの部屋の真ん中に臥せている白い狐を見ていた。


ああ、この白い狐はこんなにも、
(また、長が元気になったら会いに来てもいいですか?)(おう、ぜひ遊びに来てくれよ!)


(奥にいたのはあっくん、赤いのはこたちゃん。)

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