渡久地くん
たまにはお前も呑みに行こうぜ、という誘いは十中八九断るようにしている。
今日の練習帰りにも誘われた呑みを断るつもりだったのだが、携帯を開くと「急に今からヘルプ入ることになっちゃった。ごはん冷蔵庫いれてるよ」というメールを読んで気が変わった。ひさびさに呑みに行くとするか。「いいぜ」という返事にぱっと花が開くように笑う出口を横目に「呑みに行ってくる」と返事を打ち込んだ。
目の前には酔いが回りかけの出口。弱いんだったら無理して呑むなよと言いたいが言って絡まれるのも面倒くさい。特にこいつは絡み酒で酔いが回れば回るほど鬱陶しい。
「なあとくちー」
「・・・なんだ」
「おまえのそのワックス普段どんだけ使ってんだよ」
・・・心底どうでもいい。
夜も更けに更けてきたころ、酒を煽っているのは俺と児島だけになった。
他愛もない話を適当に交わしていたころ、ポケットに入れた携帯がバイブで着信を知らせた。
「もしもーし。」
「どうした」
「んー今バイト終わったんだけど、一緒に帰らない?」
完全に酔いが回り、潰れてる彼らをみて、そろそろお開きになるのも確かだ。
「そっちまで迎えに行くか?」
「いいよ。どうせ帰り道に通るし。」
行きつけのバーにいることはすでに知らせていたので確かに場所はわかっているだろう。
「ていうか、もう目の前なんだよね」
「は?」
おい、どういうことだ、という言葉が口に出る前に奥のドアが開いたことにより、りん、とベルを鳴らした。
「こんばんはー渡久地君お迎えにきましたー」
「おい」という俺の声を無視して、マスターの「今日は呑まないのですね」と残念そうな声に「ごめんなさい、また呑みに来ますね」とのんきな返事を返す。
「おい」
「こんばんは児島さん」
「あ、ああ・・・」
「おい」
「なあに」
「何しに来た」
「東亜をお迎えに?」
おどけた様子で笑う彼女にこれは何かあったな、と確信した。
月明かりと街灯を頼りに歩道をあゆむ。
時刻は3時過ぎ。車もあまり通らない。
3月は太陽はぽかぽかとして比較的暖かく春の気配を感じさせるが、夜更けにもなるとまだまだ冷たい風が吹きすさぶ。関東は寒い。
沈黙の空気は冷たい風に流されていく。なんてことはない、いつもの空気感。
「じつはちょっと夜道こわかったんだよね」
それだけ。静かに俯いた横顔をなんとなく見つめた。
素直じゃねーな。そういうところは俺に似なくてよかったのに。
はあ、と白いため息をついて上着のポケットに突っ込んでいた手をあいつの手に重ねた。
(バイト先で嫌なことでもあったんだろうな、と思いながら何も言わない東亜ちゃん)
今日の練習帰りにも誘われた呑みを断るつもりだったのだが、携帯を開くと「急に今からヘルプ入ることになっちゃった。ごはん冷蔵庫いれてるよ」というメールを読んで気が変わった。ひさびさに呑みに行くとするか。「いいぜ」という返事にぱっと花が開くように笑う出口を横目に「呑みに行ってくる」と返事を打ち込んだ。
目の前には酔いが回りかけの出口。弱いんだったら無理して呑むなよと言いたいが言って絡まれるのも面倒くさい。特にこいつは絡み酒で酔いが回れば回るほど鬱陶しい。
「なあとくちー」
「・・・なんだ」
「おまえのそのワックス普段どんだけ使ってんだよ」
・・・心底どうでもいい。
夜も更けに更けてきたころ、酒を煽っているのは俺と児島だけになった。
他愛もない話を適当に交わしていたころ、ポケットに入れた携帯がバイブで着信を知らせた。
「もしもーし。」
「どうした」
「んー今バイト終わったんだけど、一緒に帰らない?」
完全に酔いが回り、潰れてる彼らをみて、そろそろお開きになるのも確かだ。
「そっちまで迎えに行くか?」
「いいよ。どうせ帰り道に通るし。」
行きつけのバーにいることはすでに知らせていたので確かに場所はわかっているだろう。
「ていうか、もう目の前なんだよね」
「は?」
おい、どういうことだ、という言葉が口に出る前に奥のドアが開いたことにより、りん、とベルを鳴らした。
「こんばんはー渡久地君お迎えにきましたー」
「おい」という俺の声を無視して、マスターの「今日は呑まないのですね」と残念そうな声に「ごめんなさい、また呑みに来ますね」とのんきな返事を返す。
「おい」
「こんばんは児島さん」
「あ、ああ・・・」
「おい」
「なあに」
「何しに来た」
「東亜をお迎えに?」
おどけた様子で笑う彼女にこれは何かあったな、と確信した。
月明かりと街灯を頼りに歩道をあゆむ。
時刻は3時過ぎ。車もあまり通らない。
3月は太陽はぽかぽかとして比較的暖かく春の気配を感じさせるが、夜更けにもなるとまだまだ冷たい風が吹きすさぶ。関東は寒い。
沈黙の空気は冷たい風に流されていく。なんてことはない、いつもの空気感。
「じつはちょっと夜道こわかったんだよね」
それだけ。静かに俯いた横顔をなんとなく見つめた。
素直じゃねーな。そういうところは俺に似なくてよかったのに。
はあ、と白いため息をついて上着のポケットに突っ込んでいた手をあいつの手に重ねた。
(バイト先で嫌なことでもあったんだろうな、と思いながら何も言わない東亜ちゃん)
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