尊さん
「この人、」
「あー、それ、1回寝たらどんだけ騒いでも起きへんから気にせんでええよ」
いや、そういう意味じゃなくて。なんでここで寝てるのか聞きたかったが、有無を言わせない草薙さんの態度にひとつ舌打ちを零した。尊さんは夜出て行ったきりまだ帰ってきていないようだ。どうせ、ふらりと余所へ飲みに行ったのを待っているうちに寝てしまったのだろう。ふいに、ひとりだと眠れないの、と恥ずかしそうに打ち明けたことを思い出した。うとうとしながらも限界まで起きている姿が脳裏に浮かんだ、馬鹿だなこの人。そんなの、連絡ひとつで帰ってくるだろうに。寝返りをうつ髪を撫でる寸前、この人にだけは独占欲の塊のような王様を思い出した。
手が彷徨う。
***
俺の知らないあれの一面を、草薙や十束が知っていると思うと酷く腹が立った。元々我慢なんてするような性質じゃねえ。持っていたグラスに力が入りすぎて割れてしまった。談笑していた3人の声がぴたりとやむ。濡れてしまった手も割れたグラスも気にせず、戸惑っている腕を掴み二階へ戻って行った。
***
「あいつは、」
「ん?尊どこ行ったか知らんの?」
「起きたらいなかった」
「昼間に出かけるー、言うてでかけたけど。そういえばどこ行くのか聞かんかったなあ」
「・・・」
誰にも行き先を言わず唐突に出かけたのがやけに気にかかった。「愛想尽かしてでていかれたんじゃないの」と冗談を言う十束の頭を殴って、アンナに目配らせるとコクリと頷いた。都内の地図とビー玉を使い、あいつの居場所を調べさせる。
「そこまでせんでも」
「ほーんとキングはあの子のことになるとびっくりするくらい心配症になるね」
苦笑いする2人を無視してアンナの動かす3つのビー玉を見つめた。ころがるビー玉は、止まることを知らないように動き続けている。なんとなく感じていた嫌な予感がますます現実味を帯びていく。
「ここには、いない」
「は?」「え?」
「東京じゃないところにいる」
「う、嘘やろ!?と、十束、日本地図持ってきてくれへんか」
「わかった」
アンナの能力でも捜索範囲が広ければ都道府県程度しかわからないだろう。それでも、探して連れ戻して自分の傍におきたい。隣にいないと落ち着かねえんだよ。
ただでかけたわけじゃない、と本能が告げている。このままあいつは帰ってこない。そう、感じた。
傍にいたから、見えなかった。
離れてから、気づいた。
「あー、それ、1回寝たらどんだけ騒いでも起きへんから気にせんでええよ」
いや、そういう意味じゃなくて。なんでここで寝てるのか聞きたかったが、有無を言わせない草薙さんの態度にひとつ舌打ちを零した。尊さんは夜出て行ったきりまだ帰ってきていないようだ。どうせ、ふらりと余所へ飲みに行ったのを待っているうちに寝てしまったのだろう。ふいに、ひとりだと眠れないの、と恥ずかしそうに打ち明けたことを思い出した。うとうとしながらも限界まで起きている姿が脳裏に浮かんだ、馬鹿だなこの人。そんなの、連絡ひとつで帰ってくるだろうに。寝返りをうつ髪を撫でる寸前、この人にだけは独占欲の塊のような王様を思い出した。
手が彷徨う。
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俺の知らないあれの一面を、草薙や十束が知っていると思うと酷く腹が立った。元々我慢なんてするような性質じゃねえ。持っていたグラスに力が入りすぎて割れてしまった。談笑していた3人の声がぴたりとやむ。濡れてしまった手も割れたグラスも気にせず、戸惑っている腕を掴み二階へ戻って行った。
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「あいつは、」
「ん?尊どこ行ったか知らんの?」
「起きたらいなかった」
「昼間に出かけるー、言うてでかけたけど。そういえばどこ行くのか聞かんかったなあ」
「・・・」
誰にも行き先を言わず唐突に出かけたのがやけに気にかかった。「愛想尽かしてでていかれたんじゃないの」と冗談を言う十束の頭を殴って、アンナに目配らせるとコクリと頷いた。都内の地図とビー玉を使い、あいつの居場所を調べさせる。
「そこまでせんでも」
「ほーんとキングはあの子のことになるとびっくりするくらい心配症になるね」
苦笑いする2人を無視してアンナの動かす3つのビー玉を見つめた。ころがるビー玉は、止まることを知らないように動き続けている。なんとなく感じていた嫌な予感がますます現実味を帯びていく。
「ここには、いない」
「は?」「え?」
「東京じゃないところにいる」
「う、嘘やろ!?と、十束、日本地図持ってきてくれへんか」
「わかった」
アンナの能力でも捜索範囲が広ければ都道府県程度しかわからないだろう。それでも、探して連れ戻して自分の傍におきたい。隣にいないと落ち着かねえんだよ。
ただでかけたわけじゃない、と本能が告げている。このままあいつは帰ってこない。そう、感じた。
傍にいたから、見えなかった。
離れてから、気づいた。
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