尊さん
「尊?」「あ?」「その右手」まるで何かの模様かのように黒く浸食されている。ああ、聞いちゃだめだったか。尊は返事なく黒い右手をずっと見つめている。「俺も長くねえようだな」「…やだよ、尊」「わりいな。諦めてくれ」「諦めたく、」ない、と言われたくないみたいで、言葉を遮るようにキスを落とされた。
***
雪が降った日は私がはしゃいで鬱陶しいらしい、尊さん曰く。わあい、と外へ駆けて、しゃがんで積もった雪を掬い上げる。しかし暫く眺める間もなく見覚えのある“赤”によって途端にしゅわ、と雪が解けて液体になり土へ還って行く。尊さんのいじわる。睨むようにして見上げると、意地の悪い表情をしながら私の目の前に赤い手袋をひらりと落とした。
「好きだなお前」
「うん。実家じゃ全然降らなかったから」
「さむいだけだろ」
「尊が厚着してないだけでしょー」
「…煙草買いに行くぞ」
「はあい」
雪道を踏みしめると綺麗に溶けて、足跡が残る。
***
延々と洗濯物をたたむ、作業のようなこれは意外と心を落ちつかせる。いつも煙草臭いこの服も、干したてだけに太陽と洗剤の匂いがふわふわと漂っている。気分良く鼻歌をこぼしていると、いつの間にやら隣に尊さんが座り込んだ。「タオル使う?」「いや、」
シルバーリングの輝く指が、布を触った。
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雪が降った日は私がはしゃいで鬱陶しいらしい、尊さん曰く。わあい、と外へ駆けて、しゃがんで積もった雪を掬い上げる。しかし暫く眺める間もなく見覚えのある“赤”によって途端にしゅわ、と雪が解けて液体になり土へ還って行く。尊さんのいじわる。睨むようにして見上げると、意地の悪い表情をしながら私の目の前に赤い手袋をひらりと落とした。
「好きだなお前」
「うん。実家じゃ全然降らなかったから」
「さむいだけだろ」
「尊が厚着してないだけでしょー」
「…煙草買いに行くぞ」
「はあい」
雪道を踏みしめると綺麗に溶けて、足跡が残る。
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延々と洗濯物をたたむ、作業のようなこれは意外と心を落ちつかせる。いつも煙草臭いこの服も、干したてだけに太陽と洗剤の匂いがふわふわと漂っている。気分良く鼻歌をこぼしていると、いつの間にやら隣に尊さんが座り込んだ。「タオル使う?」「いや、」
シルバーリングの輝く指が、布を触った。
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