尊さん
「やだ、離さない。」
冷たくなって殊更重く感じる体を抱きしめる。
「我儘いいなや。」
「やだ」
「そない言うても、腐るで、それ。」
「まだ腐ってない、もん」
出血なんてとっくに止まっていた。わたしの白いワンピースはどろどろと赤黒く包まれている。“それ”と呼ばれてしまうモノになってしまったなんて、まだ考えたくないの。ねえ尊。このまま私と焼かれるか、私と永久に離れず腐るか、どっちを選びますか?
涙すら、拭ってくれないの?
***
にゃあん。
聞き覚えのない鳴き声がバーに響いた。
「猫?」
「ああ、藤島が拾ってきたねん」
「また?」
「あいつの拾い癖はなかなか治らへんなあ」
俺としては猫の毛がグラスについたら嫌やからさっさと里親見つけてほしいねんけど。ぼやく草薙さんにどんまいと心の中でこぼしつつ、鳴き声の主を探した。
にゃあん。
ここにいるよと、もうひと鳴き。それで尊の座るソファにいることがわかった。艶のある毛並みから、飼い猫だったと想像できる。…それにしても尊さんの膝の上、か。わたしでもそこに座ったことないのに。どうだうらやましいだろ、と勝ち誇った目を向けられている気がしてむう、と口が歪んだ。
「なんだ」
「なんでも」
「…お前も座るか」
「い、いいもん」
意地っ張りを見抜き、鼻で笑われた。
「あとでな」と、声には出さず口を動かしたのを見て、頬が熱くなった。
***
ずっと我慢していたのに、けほ、と咳をこぼしてしまった。「…風邪か」「ちがう、ちょっと喉が気持ち悪くて」「…水いるか」「薬はいらない」「飲めよ、馬鹿」すっ、とソファから立ち上がり水と薬を取りに行ってしまった。どうしてこうも尊さんには体調不良を見抜かれるんだろう。草薙さんにもばれなかったのになあ。
平気なふりしてもお見通し。
冷たくなって殊更重く感じる体を抱きしめる。
「我儘いいなや。」
「やだ」
「そない言うても、腐るで、それ。」
「まだ腐ってない、もん」
出血なんてとっくに止まっていた。わたしの白いワンピースはどろどろと赤黒く包まれている。“それ”と呼ばれてしまうモノになってしまったなんて、まだ考えたくないの。ねえ尊。このまま私と焼かれるか、私と永久に離れず腐るか、どっちを選びますか?
涙すら、拭ってくれないの?
***
にゃあん。
聞き覚えのない鳴き声がバーに響いた。
「猫?」
「ああ、藤島が拾ってきたねん」
「また?」
「あいつの拾い癖はなかなか治らへんなあ」
俺としては猫の毛がグラスについたら嫌やからさっさと里親見つけてほしいねんけど。ぼやく草薙さんにどんまいと心の中でこぼしつつ、鳴き声の主を探した。
にゃあん。
ここにいるよと、もうひと鳴き。それで尊の座るソファにいることがわかった。艶のある毛並みから、飼い猫だったと想像できる。…それにしても尊さんの膝の上、か。わたしでもそこに座ったことないのに。どうだうらやましいだろ、と勝ち誇った目を向けられている気がしてむう、と口が歪んだ。
「なんだ」
「なんでも」
「…お前も座るか」
「い、いいもん」
意地っ張りを見抜き、鼻で笑われた。
「あとでな」と、声には出さず口を動かしたのを見て、頬が熱くなった。
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ずっと我慢していたのに、けほ、と咳をこぼしてしまった。「…風邪か」「ちがう、ちょっと喉が気持ち悪くて」「…水いるか」「薬はいらない」「飲めよ、馬鹿」すっ、とソファから立ち上がり水と薬を取りに行ってしまった。どうしてこうも尊さんには体調不良を見抜かれるんだろう。草薙さんにもばれなかったのになあ。
平気なふりしてもお見通し。
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