文章置き

written by古川優菜twitter:)http://twitter.com/fullkota思いついたときに思いついたことをつらつら書くので更新は不定期。
written by古川優菜
twitter:)http://twitter.com/fullkota
思いついたときに思いついたことをつらつら書くので更新は不定期。

尊さん

帰ってきてシャワー浴びようと思ってスウェットをとりだしたら何故か上の服がない。あ?確かあいつがいつも通りここにいれてただろ。どうせこんな時間に起きてるはずがない。スウェットの場所を聞くわけでもねえが、ベッドをのぞき込むと、ぶかぶかな俺のスウェットを身にくるんで寝ていた。なにやってんだ。なんとなく枕が湿っぽかった。は、と鼻で笑いながら頬をつついた。

***

控えめにノックしてみるけど返事はあまり期待していない。ゆっくりドアを開けて、頭だけ覗かせて「尊さん?」と呼んでみるとソファでじっと目をつむっていた。うん、あれは寝てない。「尊さん、草薙さんが呼んでる」呼びかけてみたけど反応はなかった。・・・部屋に入っていいのかな。距離感がわからない。

「また、悪夢?」
「見ない日なんてねえよ」
どんな悪夢なのかは知らないけれどいつも右手が僅かに震えている気がする。尊さんの右手をとって、よしよしと撫でると「あほか」と呆れられた。尊さんの右手は、わたしたちを守ってくれる右手。両手でぎゅっと握って持ち上げてわたしのおでこに寄せた。
「ありがとう、尊さんの右手。」
そういうとまた呆れた目をされた。

***

「尊さんが死んだら骨貰っていい?」
「…墓に閉じ込められるよりはいいかもな」

燃やされて面影もなくなってしまった尊さんの遺骨を箸で拾っていく。この人、こんなに脆かったっけ。いつも熱い炎を身にまとっていたのに、こんなところで簡単に燃やされてしまう人だったのだろうか。箸が、動かない。こんなところに収まってしまって良い人なの?涙が浮かんで視界がぼやけた。

「これ、お前のもんや」
「え?」
「自分で欲しい、いうたんやろ?」
かつて交わした約束は、あれからずっと覚えられていたらしい。「大事にしいや」と渡された壺はとても重かった。中身は、軽いのに。冷たい床に座り込んで壺を抱えて、尊さんが死んでから初めて声を上げて泣いた。

いたずらに、空回りするばかりだ。

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